成田キャンパス
病理・病理診断学教室

病理・病理診断学教室

研究概要

当教室では、多様なテーマで病気の理(ことわり)を解き明かす研究活動、また得られた知識を反映させたより精緻な次世代の病理診断システムの開発を展開しています。ここでは数多くのテーマから、いくつかのトピックを紹介いたします。

早期病変、原因およびドライバー変異に焦点をおいた肺腺癌のゲノム解析

主幹研究員:石川 雄一

次世代シークエンスの発達により、癌の全エクソン解析が可能となった。ホルマリン固定パラフィン包埋材料(FFPE)での解析結果も安定してきた。本研究では、FFPEを使っての肺腺癌の早期病変、原因およびドライバー変異に焦点をあてた全エクソーム解析を行う。具体的には、(1) 喫煙者、非喫煙者、非喫煙アスベスト曝露者に発生した早期腺癌、(2) ALK肺癌を含む2重癌、ALK肺癌の進展に伴うゲノム変化を解析する。
これにより、喫煙・アスベスト・明らかな外因なしの早期腺癌のゲノム変化、および同一患者にALK肺癌と別の肺癌が発生する機序、さらにALK肺癌のプログレッションに関連したゲノム変化が明らかになる。
本研究は、がん専門施設で入手できる検体を用い、FFPEを対象とした全エクソーム解析と病理組織診断との統合によって、癌発生の最初のゲノム変化を同定する試みであり、組織像とゲノム変化を統合し、人体病理学研究の新たな方向を開こうとするものである。

形態形成異常の動的メカニズムの解析(システム病理学の確立)

主幹研究員:潮見 隆之

病理医が癌を診断する際に、正常組織と区別するために種々の形態異常を手掛かりに診断を行っています。近年の分子病理学的検討の進展から種々のマーカー、遺伝子異常が同定され、分子標的薬の開発、またこれら薬剤の臨床適用が進展してきました。しかし多くの場合、単一の遺伝子異常やシグナル伝達機構が癌を引き起こすわけではなく、個々の分子の異常で疾患を定義することは不可能です。従って癌か否かを決定しているのは、依然として顕微鏡下で認識される形態異常を主たるメルクマールとしています。
本研究テーマでは、正常組織構築と異なる形態異常を生み出す分子機構の解明を目指します。手法として、二方向からアプローチを試みます。一方は器官培養系を用いて構造異型を生み出す因子をスクリーニングし、続いてその動的プロセスを解析するwetからのアプローチです。他方、dry lab的なアプローチとして細胞の分裂、増殖、運動、接着をシミュレーションし、これらのパラメータの変化がどのような形態を形成するのか検証していきます。このwetおよびdryの実験から得た情報を統合し、癌細胞・組織においてどのような分子システムの変化が形態異常を引き起こすのかを解明します。

非アルコール性脂肪性肝疾患の動物モデルの開発と、それを用いた新しい予防・治療法開発研究

主幹研究員:高橋 芳久

非アルコール性脂肪性肝疾患(NAFLD)はアルコール多飲歴のない人の肝臓に過剰な脂肪が蓄積する疾患で、メタボリック症候群に関連します。NAFLDの中でも壊死や炎症を伴う病態は非アルコール性脂肪性肝炎(NASH)と呼ばれ、肝硬変や肝癌へと進展することがあります。肥満の増加に伴ってNAFLDの頻度は全世界的に急速に増加しています。NAFLDの予防・治療の基本は食事制限や運動による体重減少ですが、肥満者がそれを継続的に行うのは容易でなく、もっと実行の容易な方法の開発が急務となっています。NAFLDの病因解明や予防・治療法の開発のためには適切な動物モデルが必要ですが、ヒトNAFLDの病態を完全に反映する動物モデルはいまだ開発されていません。
私たちの研究グループは、これまでにラットに高フルクトース食を与えることでヒトNASHに類似した肝組織像が誘導されることを明らかにし(World J Gastroenterol 2012; 18: 2300-8)、ある種の漢方薬や、ユーカリやバナバ葉抽出物、少量のエタノール投与によってマウスやラットのNASH病変が抑制されることを発見しました(PLoS One 2014; 9: e87279, Pathol Int 2014; 64: 490-8, Biomed Res Int 2015; 2015: 296207) 。今後も、ヒトNAFLDの病態をより正確に反映する動物モデルの開発や、それによるNAFLDの病因解明、新しい予防・治療法の開発を目指して研究を行います。

Valosin-Containing Protein (VCP)の癌転移における役割の解明

主幹研究員:冨田 裕彦

私達は、マウス骨肉腫細胞株を用いたサブトラクション法により、ユビキチン化された物質のValosin-Containing Protein (VCP)がマウス骨肉腫高転移株で高発現していることを発見しました。VCPはタンパク分解に関与するATPaseです。VCP導入を行った骨肉腫細胞株は抗アポトーシス、高転移能を示しました。様々なヒト臨床癌においてもVCP高発現は悪性の指標でした。
VCPはSignal Tranducer and Activator of Transcription 3(STAT3)シグナルに関与するとの報告があります。私達のグループは、VCPのco-factorであるUbiquitin-Like 4A (UBL4A)がSignal Tranducer and Activator of Transcription 3(STAT3)の特異的に不活化に関与することを発見しました。今後、さらに研究を進め、腫瘍を中心とした、細胞増殖におけるVCPの働きを明らかにしたいと考えます。

発生異常と腫瘍発生の分子形態学的研究

主幹研究員:福澤 龍二

ヒトの初期発生の異常によって起こる臓器の形成異常と腫瘍発生の分子形態学的研究を行っています。具体的には以下の3つです。1) 胎児性腫瘍・胚細胞腫瘍のゲノムワイドな遺伝情報の解析(エクソームシークエンス,RNAシークエンス,DNAのメチル化など)によるヒトの発生と腫瘍化のプログラムの分子解析 2) iPS細胞移植後の臓器の発生、再生、腫瘍化の病理組織学的解析 3) 希少な臓器形成異常の組織標本と遺伝子発現情報の電子データベース化による新らしい疾患概念の確立

デジタルパソロジーとAIについて

主幹研究員:森 一郎

病理のガラス標本全面を高解像度で写真化し、それらをソフトウェア的につなげてできるデジタル画像を用いて、病理診断を顕微鏡とガラス標本にしばられた世界から解放し、自由にどこからでも診断できるデジタルパソロジーの実現と普及を目指しています。すでにベトナムに開設した人間ドックの病理標本を、デジタル化後日本にある国際遠隔画像診断センターで遠隔診断しています。今後はこれにAI診断を取り入れ、病理診断の世界を根本から変革することを目指しています。