成田キャンパス
病理・病理診断学教室

病理・病理診断学教室

研究概要

当教室では、多様なテーマで病気の理(ことわり)を解き明かす研究活動、また得られた知識を反映させたより精緻な次世代の病理診断システムの開発を展開しています。ここでは数多くのテーマから、いくつかのトピックを紹介いたします。

肝疾患の臨床病理学的研究

主幹研究員:小無田 美菜

テーマ1:原発性肝癌(肝細胞癌・肝内胆管癌・混合型肝癌)の病理多彩性とその臨床的意義

原発性肝癌(肝細胞癌・肝内胆管癌・混合型肝癌)は、肝細胞、胆管細胞、肝前駆細胞の3つの異なるcell-of-originから発生する病理多彩性および連続性を特徴とする腫瘍群です。
多彩性を有する病理像の中で、臨床的に意義があるとされる遺伝子異常、治療選択や治療効果、予後を予測できる病理像を解明する研究を行っています。
研究の一部は、国内外の研究機関との共同研究であり、single cell analysisやAI画像解析など最新の手法も含めた包括的な研究を行っています。

テーマ2:ICI関連肝障害を含む薬物性肝障害および自己免疫性肝炎

臨床・病理診断が容易でないICI関連肝障害を含む薬物性肝障害および自己免疫性肝炎の臨床病理学的検討を行い、診断基準の見直し、予後予測、そして治療方針決定につながる病理像の解明を行っています。

形態形成異常の動的メカニズムの解析(システム病理学の確立)

主幹研究員:潮見 隆之

病理医が癌を診断する際に、正常組織と区別するために種々の形態異常を手掛かりに診断を行っています。近年の分子病理学的検討の進展から種々のマーカー、遺伝子異常が同定され、分子標的薬の開発、またこれら薬剤の臨床適用が進展してきました。しかし多くの場合、単一の遺伝子異常やシグナル伝達機構が癌を引き起こすわけではなく、個々の分子の異常で疾患を定義することは不可能です。従って癌か否かを決定しているのは、依然として顕微鏡下で認識される形態異常を主たるメルクマールとしています。
本研究テーマでは、正常組織構築と異なる形態異常を生み出す分子機構の解明を目指します。手法として、二方向からアプローチを試みます。一方は器官培養系を用いて構造異型を生み出す因子をスクリーニングし、続いてその動的プロセスを解析するwetからのアプローチです。他方、dry lab的なアプローチとして細胞の分裂、増殖、運動、接着をシミュレーションし、これらのパラメータの変化がどのような形態を形成するのか検証していきます。このwetおよびdryの実験から得た情報を統合し、癌細胞・組織においてどのような分子システムの変化が形態異常を引き起こすのかを解明します。

癌遺伝子AKTを介するシグナル伝達経路の肺癌における異常の解析

主幹研究員:土橋 洋

AKTは癌遺伝子としてのみならず、非腫瘍性疾患でもその関与が広く知られている。近年の"精密医療"への発展の中で、我々は肺癌のAKT遺伝子増幅、変異、多型、各異常に伴い変動するmicroRNAについて研究してきた。その中で治療標的と目されるAktとその下流に位置するmTOR(mammalian Target of Rapamycin)系の周辺エフェクターの発現異常をmicroarray解析で明らかにした。このエフェクター群には肺癌の中でも病理組織型やStageにより発現様式が異なる分子、他の癌では増殖因子でありながら肺癌では抑制因子である等、多様な分子が含まれ、バイオマーカーとなりうる因子もあることが判明した。この研究の継続により更に多様な因子群を含めたプロファイルを作製して肺癌症例を新規群別化し、個々の発癌の詳細な機序と最適な治療法の解明への一助とすることを考えている。

Valosin-Containing Protein (VCP)の癌転移における役割の解明

主幹研究員:冨田 裕彦

私達は、マウス骨肉腫細胞株を用いたサブトラクション法により、ユビキチン化された物質のValosin-Containing Protein (VCP)がマウス骨肉腫高転移株で高発現していることを発見しました。VCPはタンパク分解に関与するATPaseです。VCP導入を行った骨肉腫細胞株は抗アポトーシス、高転移能を示しました。様々なヒト臨床癌においてもVCP高発現は悪性の指標でした。
VCPはSignal Tranducer and Activator of Transcription 3(STAT3)シグナルに関与するとの報告があります。私達のグループは、VCPのco-factorであるUbiquitin-Like 4A (UBL4A)がSignal Tranducer and Activator of Transcription 3(STAT3)の特異的に不活化に関与することを発見しました。今後、さらに研究を進め、腫瘍を中心とした、細胞増殖におけるVCPの働きを明らかにしたいと考えます。

発生異常と腫瘍発生の分子形態学的研究

主幹研究員:福澤 龍二

ヒトの初期発生の異常によって起こる臓器の形成異常と腫瘍発生の分子形態学的研究を行っています。具体的には以下の3つです。1) 胎児性腫瘍・胚細胞腫瘍のゲノムワイドな遺伝情報の解析(エクソームシークエンス,RNAシークエンス,DNAのメチル化など)によるヒトの発生と腫瘍化のプログラムの分子解析 2) iPS細胞移植後の臓器の発生、再生、腫瘍化の病理組織学的解析 3) 希少な臓器形成異常の組織標本と遺伝子発現情報の電子データベース化による新らしい疾患概念の確立

デジタルパソロジーとAIについて

主幹研究員:森 一郎

病理のガラス標本全面を高解像度で写真化し、それらをソフトウェア的につなげてできるデジタル画像を用いて、病理診断を顕微鏡とガラス標本にしばられた世界から解放し、自由にどこからでも診断できるデジタルパソロジーの実現と普及を目指しています。すでにベトナムに開設した人間ドックの病理標本を、デジタル化後日本にある国際遠隔画像診断センターで遠隔診断しています。今後はこれにAI診断を取り入れ、病理診断の世界を根本から変革することを目指しています。