教室紹介
竹本稔教授(代表)らが中心となって解析された我が国における高齢者高度肥満症患者の減量・代謝改善手術の安全性と有効性に関する論文がAnn Gastroenterol Surg誌に掲載されました。
https://onlinelibrary.wiley.com/doi/full/10.1002/ags3.12680
この論文では我が国の高齢者高度肥満症患者における減量・代謝改善手術の安全性と効果を検証しました。結果、短期的には安全で有効なことを明らかにしました。
しかしながら長期的に高齢者高度肥満症患者の減量が生命予後やADL、QOLを改善するかに関しては全くデータがなく、今後検証してゆく必要があります。
本論文の内容紹介
【緒言】日本肥満症治療学会肥満が作成したガイドライン(2013年版)によると,減量・代謝改善手術 (MS: metabolic surgery)の適応は「18~65歳の原発性肥満」とあり、現在、高齢者はMSの適応から外れる。しかし、海外では65歳以上であってもMSは安全かつ減量効果があることが報告されていることから、我が国おける高齢者高度肥満症患者に対するMSの安全性と有効性を検証し、年齢上限を再考する必要がある。
【目的】高齢者高度肥満症患者のMSの安全性と効果の検証。
【方法】日本肥満症治療学会のデータベースに2021年11月までに登録されていた症例を解析。
【結果】データベースに登録されていた3,643名中、身長、体重、誕生日、手術日などの記載不明確な症例を省き、2941名を解析対象とした。65歳未満(若年者)は2,885名(平均年齢43.9 ± 9.5)、65歳以上(高齢者)は56名(平均年齢67.3 ± 3.2、最高齢78歳)。高齢者は女性優位(73.2%)であり、術前のBMIは若年者 vs. 高齢者(42.49±8.1 vs. 40.5±86.6)であった。若年者に比し高齢者は高血圧(62.5 vs. 80.4%、p= 0.004)、脂質異常症 (65.7 vs. 82.1%, p=0.007)の合併率が高い一方、糖尿病合併率に差はなかった (56.4 vs. 67.9%, p = 0.083)。安全性では再手術(1.6 vs. 0%)、術中合併症 (0.94 vs. 0%)、術後合併症 (6.6 vs. 5.4%) と差はなく、術後両群ともに有意な体重減少(総体重減少率 22.9 ± 10.9 vs. 20.6 ± 7.4%, p = 0.12)が得られ、高血圧、脂質、糖尿病の改善率も両群に差はなかった。さらに傾向スコアマッチングにより共変量バランスを揃えた上で検討した結果 (両群 n = 56) においても術後の併存症の改善や周術期の合併症に年齢による差を認めなかった。この結果を踏まえて、日本肥満症治療学会認定施設に高齢者高度肥満症手術の年齢上限に関するアンケート調査を行った所、23認定施設中22施設から回答を得て、82.6%の施設が65歳以上であっても減量・代謝改善手術の適応はあるとの回答があった。
【考察】高齢者では減量に伴い骨格筋量の減少からフレイルやそれに関連する死亡リスクが長期的に上昇することも危惧される。そのためMSが必要な高齢者を適切に選び出し、術後も長期間、慎重に経過を観察しサポートする必要がある。
【結語】高齢者高度肥満症患者のMSは安全かつ有効な可能性が高い。さらに症例数を増やし、長期予後を検証する必要がある。