分子生物学教室成果
糖尿病治療薬イメグリミンの腎保護効果を明らかに
新規糖尿病治療薬イメグリミンの急性腎障害に対する保護効果を発見
-虚血再灌流による腎臓の炎症およびDNA損傷を抑制する可能性-
基礎医学研究センターの村松弘樹助手、吉田修土さん、鈴木香織さん、河原崎和歌子准教授、丸茂丈史教授の研究グループは、糖尿病治療薬イメグリミンが虚血再灌流によって生じる急性腎障害に対して保護効果を示すことを明らかにしました。本研究では、マウスモデルおよび培養細胞を用いて、イメグリミンが近位尿細管における活性酸素種の産生を抑制し、炎症反応やDNA損傷を減弱することで、腎機能維持の効果をもたらす可能性が示されました。本研究成果は2026年2月10日付で「Biochemical and Biophysical Research Communications」誌オンライン版に掲載されました。
■研究背景
急性腎障害は、手術後や循環不全、感染症を契機に発症し、重症化すると慢性腎臓病へと移行するリスクが高い重要な疾患です。主な原因の一つに、血流が一時的に途絶えた後に再灌流することで生じる虚血再灌流障害があります。虚血再灌流に伴う腎障害では、ミトコンドリアにおける過剰な活性酸素種の産生や炎症反応、DNA損傷が誘導され、特に近位尿細管を中心とした組織障害が生じることが知られています。
イメグリミンは、インスリン分泌促進とインスリン抵抗性改善の二つの作用を併せ持つ新しい経口糖尿病治療薬です。これまでに、膵臓や肝臓における活性酸素種の産生抑制を介した保護作用は報告されていましたが、腎臓に対する直接的な保護効果については明らかではありませんでした。本研究では、マウスの虚血再灌流モデルや培養細胞系を用いて、イメグリミンの腎臓に対する保護効果を検討しました。
■研究内容
本研究では、マウス虚血再灌流モデルを用いて急性腎障害を誘導し、イメグリミン投与による腎機能および組織障害への影響を評価しました。その結果、イメグリミンの投与により、血清クレアチニン値や血清尿素窒素の上昇が有意に抑制され、腎機能低下が改善されることが明らかになりました。また、腎臓の組織障害も軽減されることが確認されました。さらに、網羅的な遺伝子発現解析の結果、イメグリミン投与により、以下のような特徴的な変化が見られました。
1. 炎症およびDNA損傷応答の抑制:炎症関連遺伝子やDNA修復関連遺伝子の発現上昇がイメグリミン投与により顕著に抑えられました。組織学的検討では、DNA二本鎖切断のマーカーであるγH2AX陽性細胞数が減少し、イメグリミンがDNA損傷を軽減したことが示唆されました。
2. 腎機能関連遺伝子の維持:一方で、腎臓の正常な機能に不可欠な脂質代謝やナトリウム輸送に関わる遺伝子は、障害を受けると発現が低下しますが、イメグリミン投与群ではこれらの発現が保たれていました。
また、ヒト近位尿細管細胞を用いた培養実験においても、低酸素・再酸素化刺激によって生じる細胞内の活性酸素種の増加が、イメグリミン処理によって抑制されることが確認されました。
以上の結果から、イメグリミンは近位尿細管において活性酸素種の産生を抑え、炎症やDNA損傷を軽減することで、虚血による急性腎障害から腎臓を保護すると考えられました。
本研究により、イメグリミンが血糖降下作用に加えて、腎臓に対する直接的な保護作用を有することが初めて明らかになりました。本成果は、急性腎障害や糖尿病腎合併症の新たな予防・治療戦略の構築につながる重要な知見であり、今後の臨床応用が期待されます。
■論文情報
著者: Hiroki Muramatsu, Naoto Yoshida, Kaori Suzuki, Kohei Ueda, Wakako Kawarazaki, and Takeshi Marumo
掲載雑誌: Biochemical and Biophysical Research Communications
論文タイトル: Imeglimin protects against acute kidney injury caused by transient ischemia
DOI: 10.1016/j.bbrc.2026.153437
■研究室ホームページ
https://marumo-lab.org/