研究概要
薬物受容体の局在とその変化
Localization and density of drug receptors in native tissues
主幹研究員:村瀬 真一
体の中に入った薬がその効果を発揮するためには、その薬が体を構成する様々な分子に結合することが必要です。そのような分子の中でも細胞膜にあるG蛋白質共役型受容体(GPCR)と言われる一群の蛋白質は、多くの薬が結合する代表的な薬物受容体として知られています。私達の体で重要な役割を果たしているGPCRですが、体のどこにどの程度の数のGPCR分子があるのかは正確にわかっていません。これはGPCR分子を検出する技術が未完成であるためですが、私達はこの検出技術の精度を向上させることを試みています。この試みにより、GPCR分子が細胞膜上で集合していること、GPCR分子はいつも一定の数が細胞膜にあるのではなくて、体の状態が変化するとGPCR分子の数も変化することなどがわかってきました。薬の働き方にとって重要なGPCR分子の数がどのようなメカニズムで調節されているのかを私達は明らかにしていきます。
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エピジェネティック情報を用いた生活習慣病の新たな診断・治療法の開発
Novel diagnosis and therapy against lifestyle-related diseases using epigenetic information
主幹研究員:丸茂 丈史
Non-invasive diagnosis of kidney diseases using DNA methylation as fingerprints of kidney cells in the urine
エピジェネティック機構は遺伝子のスイッチとして発現を調節しています。単一個人であれば同じ塩基配列をもつDNAなのに、臓器ごとに発現する遺伝子が異なるのは、臓器特異的なDNAメチル化パターンが維持されているからです。臓器特異的なDNAメチル化をマーカーにすれば細胞を色分けすることができます。わたしたちは、腎臓細胞に特異的なDNAメチル化を用いて尿中に落下してくる腎臓細胞を色分けし、腎臓病を非侵襲的に診断する方法を開発しています。
DNA methylation keeps phenotype switch by maintaining changes by environmental factors; Role in metabolic memory of diabetes
一方、ゲノムの部位によっては環境によりDNAメチル化が変化する箇所があります。DNAメチル化の異常は、臓器の記憶に残るので、糖尿病の早期の血糖コントロールの状態がその後の合併症に関わるというメタボリックメモリーの原因になると考えられています。メモリーの元となり腎機能悪化に関わるDNAメチル化異常を、腎生検サンプルを用いて突き止めて、腎臓障害進行に対する新たな治療法を開発することをめざしています。
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生活習慣が深く関与する高血圧や慢性腎臓病の発症機序解明と新規治療標的の探索
Elucidation of pathogenic mechanisms of hypertension and chronic kidney disease, closely related to lifestyle, and search for new therapeutic targets
主幹研究員:河原﨑 和歌子
主に以下のテーマについて研究しています。
1)食塩摂取と肥満、加齢などの環境因子により増悪する高血圧及び慢性腎臓病の発症機序の解明と予防法・治療法の開発
2)腎臓による血圧・電解質恒常性の維持機構の解明
脊椎動物が乾燥した陸上で生きていく上で、腎臓における塩分再吸収機構は体液保持のために非常に重要でしたが、現代では過剰な食塩摂取が高血圧や腎臓病を発症させる原因となっています。高血圧は遺伝的素因の他、ストレスや肥満、加齢などの環境因子の影響を受けて発症しますが食塩摂取が深く関与しています。食塩を摂取すると、血圧が上昇する人(食塩感受性)としない人(食塩非感受性)がいますが、食塩摂取により生じる高血圧を食塩感受性高血圧といいます。血圧調節には、交感神経系及び昇圧ホルモンカスケードであるレニン-アンジオテンシン-アルドステロン系(RAA系)が腎臓と連携して関わっており、本来RAA系は食塩摂取により抑制されますが、食塩感受性の個体においては交感神経やRAA系が不適切に亢進して血圧上昇や腎障害を発症します。例えば腎臓でナトリウムの再吸収を促進するホルモンをアルドステロンといいますが、通常、高食塩摂取時には分泌が抑制されます。
しかし、何らかの異常でアルドステロンが抑制されない場合、食塩摂取時にその受容体であるミネラロコルチコイド受容体(MR)の活性化を介して、心臓や腎臓で障害を起こすことが分かりました。さらに、食塩感受性の個体では食塩摂取時に血漿アルドステロン濃度が抑制されても、腎臓でRac1蛋白が活性化してMRを活性化するために高血圧や腎障害を生じることを見出してきました。また、肥満時には脂肪細胞からアルドステロン分泌促進因子が分泌されるため、本来食塩摂取時には抑制されるアルドステロン分泌が抑制されずに継続し、血圧上昇や腎障害を生じる原因となります。
また、加齢においては血中の抗加齢因子Klothoの減少が原因となり、高食塩摂取時に血管のWnt5a-RhoA系活性化を介した血管収縮が亢進して高血圧を生じます。このように過剰な食塩の摂取は、生体の恒常性を破綻させ疾患を発症する原因となります。私達はこれらの研究を通して減塩の重要性を発信し、高血圧や腎臓病の予防や新たな治療法の開発を行なう他、高齢化社会へ向けて加齢性疾患の解析にも取り組んでいます。