研究概要
1.薬毒物分析の開発と応用
- 骨からの薬物検出
薬毒物分析は、通常血液や尿で行い、それらが採取できない場合は肝臓など各種軟組織を用いる。法医学領域では白骨事例を扱う事があるが薬物検査はできないとされていた。しかし、予備的研究で骨からも薬物が検出できることがわかり、その分析方法についての検討を行っている。 - 臓器を利用した一酸化炭素中毒診断法の確立
一酸化炭素中毒の診断は血液中のCOHb%値の測定が必須である。しかし、法医事例では血液が採取できないこともあり、胸水や心嚢液での分析を行うことがある。しかし、その妥当性について適切に検討された文献は少ないことから、事例を収集して妥当性の検討を行う。さらに液体試料さえ採取できない時もあり、臓器からの抽出液でCOHb%分析が可能か否か検討している。 - 薬毒物迅速スクリーニング法の開発
法医学領域において中毒事例あるいはその可能性を疑う事例は増えており、原因物質の確認検査を行う前の効率的な簡易検査(スクリーニング)は極めて重要である。本研究では、質量分析を用いた簡便迅速な薬毒物スクリーニング法を開発している。 - 覚醒剤関連化合物の異性体識別法の開発
覚醒剤は日本で最も乱用されている薬物であり、法医中毒事例も散見される。覚醒剤メタンフェタミンは比較的構造が単純であり、異性体を含む構造類似体が存在する。本研究では、機器分析により覚醒剤関連化合物を相互に識別する手法を開発している。
2.偶発性低体温症の病態生理解析
低体温症は深部体温が35度以下に低下した状態であり、その最悪の起点が死(偶発性低体温症)である。本研究では、マウス低体温モデルを用いて、低体温時に生じる代謝異常や血液凝固機能異常といった生体内の変化を分子病理学的手法(病理組織検査、ウェスタンブロット法、ELISA法など)で解析している。
3.感染症マーカーに関する研究
生前の既往歴や生活状況が不明である死体を多く扱う法医学では、様々な感染症を併発している事例も少なくない。また近年の新型コロナウイルス感染症の流行により、死体の感染症検査がより重要視されている。本研究では死体から採取した血液や尿、硝子体液等を用いて種々の感染症マーカーの検討をしている。
4.画像診断ツールの法医鑑定への応用
解剖では評価の難しい椎骨動脈や冠状動脈内腔等について、臨床診療で利用されている血管内視鏡を用いた病変や損傷の検出方法について検討している。また、携帯型超音波エコーや気管支鏡等、施設外での検案等での機器活用について研究を行っている。
5.災害時の法医学的活動の検討
地震、台風、豪雨等の自然災害、航空機事故やテロ等の人的災害等、災害の危険はすぐそばにある。残念ながら犠牲となってしまった方が、適切な死因判断、個人識別(身元確認)により、ご家族の元に帰っていただけるように、警察や医師会、歯科医師会等の各関係機関との訓練や勉強会を通じて連携の強化や活動の精度向上に関連する研究を行っている。
6.歯など硬組織の個人識別への応用の検討
身元不明死体の場合、個人識別によって個人を同定しご遺体を遺族のもとへ返すことが重要である。歯や骨などの硬組織は死後変化の影響を受けにくく、個人識別の試料として用いられることが多い。そこで歯に含有されるアスパラギン酸のラセミ化反応を用いた年齢推定法の検討や硬組織のCT画像を応用した年齢・身長・性別推定法の検討を行っている。
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担当:矢島大介
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