成田キャンパス

麻酔・集中治療医学教室

教室紹介

研究

幼若ラット初代培養大脳皮質神経細胞における静脈麻酔薬の神経毒性
並びにカルシウムイオン制御の経時的変化

(Intravenous anesthetic-induced calcium dysregulation and neurotoxic shift with age during development in primary cultured neurons
Neurotoxicology 69: 320-9 2018)

国際医療福祉大学医学部麻酔・集中治療医学講座 教授 澁田達史
大阪大学医学部麻酔学講座 大学院生 森田知孝
国際医療福祉大学医学部解剖学講座 教授 小阪淳

Time-lapse images of neurons from all of the groups, showing the change in Ca2+ fluorescence in response to exposure to an anesthetic.(Neurotoxicology 69: 320-9 2018)

発達期の脳神経細胞における麻酔薬による毒性に関しては、麻酔薬の種類や投与の時期、量によりアウトカムが大きく異なる。本研究では、ラット初代培養大脳皮質神経細胞を用いて、形態学的観察とカルシウムイメージング法により、本邦において頻用されている3種類の静脈麻酔薬の神経毒性の培養日数(days in vitro: DIV)による差違を解析した。妊娠17日目のウイスターラット胎児より、神経細胞を単離し培養を行った。DIV3, 7, 13にそれぞれ、チオペンタールナトリウム(100µM)、ミダゾラム(10µM)、プロポフォール(10, 100µM)を曝露し24時間後の細胞生存状況を形態学的に観察した。また、DIV4, 8, 13において、各薬物を投与した際の、神経細胞内カルシウム濃度([Ca2 +]i)の変化をモニターした。その結果、全ての麻酔薬でDIV4における有意な[Ca2 +]i上昇が認められた。また、チオペンタールやミダゾラムではDIV3-4において、細胞の生存率は有意な低下を認めなかった一方で、プロポフォールは通常使用濃度(10µM)でも細胞死の増加を認めた。DIV8では、チオペンタール、ミダゾラムでは有意な[Ca2 +]i上昇や細胞死は認められなくなったのに対し、プロポフォールでは、10, 100µMで有意な[Ca2 +]i上昇が見られ、100µMでは細胞生存率の有意な減少傾向が認められた。DIV13に達した神経細胞ではすべての麻酔薬において、[Ca2 +]i上昇や細胞死の増強効果は認められなかった。

脳神経の発達スパート期やGABA作動薬が神経興奮性から抑制系へと転換する時期は齧歯類では、概ね生後7日目、ヒトでは妊娠3半期最終期から生後6ヶ月と言われており、この時期は、神経伝達物質への曝露は特に慎重になる必要がある。また、神経細胞内においてカルシウムは、細胞の増殖、分化、タンパク合成、遺伝子発現等多くの機能を持ち、その濃度は厳格に制御されている。本研究で見られた当該時期におけるGABA作動薬によるカルシウム濃度の著しい変化は、神経細胞に大きなダメージを与える可能性がある。また、プロポフォールでは[Ca2 +]i上昇と細胞死が有意に増強した一方で、チオペンタールでは細胞死が増強しなかった理由として、フリーラジカルスカベンジャーとしての神経保護作用があったのではないかとも考えられる。

これらの結果より、筆者らはプロポフォールを小児に使用する際は、チオペンタールやミダゾラムに比べ注意が必要と結論づけた。

この研究は、2017年11月にWashington DCで開催されたAnnual Meeting of Society for Neuroscienceにおいて一部発表した後、本年、Neurotoxicology誌において公開された。直後より、大きな反響を呼び麻酔科医向けの雑誌であるLISA(メディカル・サイエンス・インターナショナル社)11月号のThe Editorialにおいても取り上げられた。

病院および執刀医の手術件数と死亡率に関するメタアナリシスの総括的レビュー

(Effect of hospital and surgeon volume on mortality following major operations: umbrella review of meta-analyses of observational studies)

手術件数と患者の短期予後には相関がある。手術件数が少ない病院(いわゆるlow volumeの病院)で手術を受けた患者の死亡率は、件数が多い病院(high volumeの病院)で受けたケースに比べ、術後30日以内の死亡率が高いことはすでに国内、および海外から発表された多くの観察研究やそれらのメタアナリシスで知られている。また、執刀医の年間手術件数が少ないと(low volumeの外科医)、患者の死亡率が高くなるという報告もある。これらを受け、近年、外科医・病院の集約化(centralization)が世界的に唱われるようになったが、本邦では遅れを取っている印象は否めない。

一般的に、難易度の高く、そもそも症例自体がさほど多くない術式―食道摘出術、膵臓摘出術、脳外科手術、心臓手術などで手術件数と死亡率の相関はより顕著となる。だが、具体的にどの手術がより相関が強いのか、また死亡率を決定づけるのは病院の手術件数なのか、あるいは外科医の手術件数なのかよく解明されておらず、総括的な見解を述べた論文もない。

 我々の研究は、過去に発表された手術件数と死亡率のメタアナリシスの論文を系統的にレビュー(umbrella review)を行い、総括的な見解を明らかにすることを目的としている。現在も研究は進行中で、本研究の一部は、2018年コペンハーゲン市(デンマーク)で開催された欧州麻酔科学会(Euroanaesthesia)にて発表した。