志賀 俊哉 教授からメッセージ

「麻酔科医」という診療科にまつわる3つの“誤解”を解きながら、麻酔科医の仕事を紹介していきたいと思います。

① 麻酔科医は手術中、麻酔薬を投与しているだけという誤解
麻酔科医は手術中、患者に薬を投与しているだけではありません。仕事は手術をする前からすでに始まっています。手術の麻酔に耐えられるかどうか、多角的な視点からリスクを評価するのは主治医ではなく、麻酔科医の役目です。手術中は刻々と変化する患者の全身状態や、手術の進行、外科医の息づかいまでも観察し、誰も気づかない程度の微調整をし、ときには大胆に舵を取ります。術中より、患者が麻酔から覚めたときの状態を先読みし、麻酔を行っています。手術翌日も、患者のベッドサイドに行き、痛みや全身状態を観察し、必要とあれば主治医に処置を提案します。 。

② 麻酔科医は患者と接する機会が少ないため、コミュニケーション能力が低いという誤解
確かに手術中、患者は眠っているため、直接会話することはできません。ですが、麻酔科医は術前・術後に患者やその家族の話に耳を傾け、個々のストーリーを頭に入れています。手術中は執刀する外科医や看護師、臨床工学技士らと逐一、コミュニケーションを密にしていなければ、急速に変化する手術の状況には到底、対応できません。これらの医療従事者はみなプロであるため、ごまかしは一切ききません。そういう意味では、麻酔科医はみなコーディネーターで、実はコミュニケーション能力に長けた人種とも言えます。病院長に麻酔科医出身者が少なくないのも偶然ではありません。

③ 麻酔科医は生涯ずっと、手術室の呪縛から逃れられないという誤解
麻酔科医の仕事は手術中の麻酔だけではありません。麻酔で培った全身管理や疼痛管理の知識を生かして、集中治療や救急、ペインクリニックや緩和医療といった専門分野で活躍する麻酔科医も増えています。また、オンオフのはっきりした診療科でもあるので、ワークライフバランスを重視した医師にも人気があります。

これらは麻酔科医の仕事のほんの一部でしかありません。もっと話を聞きたいという方、わが医局は広く門戸を開けて、ご来訪を心待ちにしています。

医学生や研修医に勧めたい本や映画

『夜と霧』 ヴィクトール・E・フランクル
『ショーシャンクの空に』
『イミテーション・ゲーム』