押味 貴之 教授からメッセージ

国際医療福祉大学医学部の英語教育

国際化に伴い、医学の領域における国際共通語としての英語の重要性が高まっている。日本国内でも医学に関する英語教育が多くの医学部や医科大学で実施されているが、その教育内容や到達度の目標設定は未だ統一されていない。そこで日本医学英語教育学会は、英語を母語としない日本の医学生の医学・医療の現場における医学英語能力の向上を目標として「医学教育のグローバルスタンダードに対応するための医学英語教育ガイドライン」を2015年に発行した(福沢 et al, 2015)。これは2013年に日本医学教育学会から提示された「医学教育分野別評価基準日本版(世界医学教育連盟(WFME)グローバルスタンダード2012年版準拠)」を参考とし、医学教育の国際的基準に合致するために必要な英語運用能力の習得を主眼としたものであり、この評価基準を参考に作成された医学英語教育ガイドラインでは、「英語で教科書・論文を読み、理解できる」「患者に英語で(医療)面接し(身体)診察できる」「学会等において英語で発表討論できる」という能力を最低限の到達目標としている。

国際医療福祉大学医学部ではこういった医学英語の能力を学生全員が獲得するために、「医学英語を学ぶ」のではなく「医学を英語で学ぶ」という「内容言語統合型学修:Content and Language Integrated Learning(CLIL)」という教育方法を採用している。ただこのように「医学を英語で学ぶ」ことは、多くの一般的な日本人学生にとって負担が大きいのが現実であるため、本学では入学時の英語力に関わらず、全ての学生が「医学を英語で学ぶ」ことが可能となるための英語教育を提供している。

1年次「医学を英語で学ぶための基礎英語力」の習得

1年次では「医学生に必要な国際教養を英語で学ぶ」ことを経験する。4月から5月下旬までの期間、留学生は日本語を履修するが、その間に日本人学生は「英語I」というコースで「日本の文化」「医師としてのキャリア」「国際ニュース」「日本の医療」という4つの題材を全て英語だけの授業で学ぶ。入学後のTOEFL ITP のリスニングスコア別に4つのクラスに分かれ、それぞれのリスニング能力に合ったペースでこれらの4つの題材をアクティブラーニングの手法で学んでいく。この60時間の「英語I」を終える頃には、全員が「英語の授業を理解する」「英語でプレゼンテーションをする」ことに慣れた状態になる。

「英語 I」が修了すると留学生も加わり、全員が「英語 II」というコースでさらに高度な4つの題材を学ぶ。 このうち3つでは「文化・人文」「医療・科学」「世界事情」の題材をTED Talks という動画を用いて学ぶ。こういった 世界最高峰の英語プレゼンテーションを使って学ぶことで、「さまざまな内容を英語で学ぶための基礎英語力」が習得できる。 4つ目の題材となる「米国式の病歴聴取・身体診察・患者教育」 では、米国医師国家試験USMLE で日本人受験者にとって最難関となるとされる Step 2 Clinical Skills (CS) と全く同じ様式で、英語での病歴聴取・身体診察・患者教育のスキルを習得する。 この180時間の「英語 II」を終える頃には全員が「医学を英語で学ぶための基礎英語力」を習得した状態となる。

実際に2017年度入学の1期生は4月の時点ではTOEFL ITPの平均点が519点であったが、「英語II」を修了した翌年1月の平均点が32点のスコアアップの551点となり、英語圏の大学留学に必要な中上級レベル(CEFR B2 Level)のスコア543点を超える結果となった。1年生140人のうち20人の留学生の平均点は603点(+25点)、日本人120人の平均点は543点(+34点)と、いずれも日本の医学部の平均点483点を大幅に上回る国内トップクラスの平均点を獲得した。
2018年度入学の2期生は4月の時点ではTOEFL ITPの平均点が511点であったが、「英語II」を修了した翌年1月の平均点が33点のスコアアップの544点となり、英語圏の大学留学に必要な中上級レベル(CEFR B2 Level)のスコア543点を超える結果となった。1年生140人のうち20人の留学生の平均点は581点(+24点)、日本人平均点は538点(+35点)と、いずれも1期生と同様の伸び幅を示した。

2年次「医師として必要な医学英語力」の修得

2年次では医学英語教育ガイドラインで示されている「医師にとって必要とされる医学英語スキル」の習得を完成させる。120時間の「医学英語」というコースでは「病歴聴取」「身体診察」「患者教育」「症例報告」「論文読解」「論文執筆」「口頭発表」などの高度な医学英語を学ぶ。授業自体がUSMLE Step 2 Clinical Knowledge(CK)&Clinical Skills(CS)の対策となるように構築されているほか、医学教育モデル・コア・カリキュラムで定められている症候学も学修項目としているので、基礎的な臨床推論能力も習得できる内容となっている。担当する教員全員が医学英語の指導に精通した医師であるので、学生は英語圏の医師が医療現場で実際に使う医学英語スキルを効率良く学ぶことができる。
2017年度入学の1期生は、この「医学英語」を修了した翌年1月の平均点がさらに2点のスコアアップの553点となった。1年生140人のうち20人の留学生の平均点は603点からさらに4点アップの607となり日本人学生の平均点は543点からさらに1点アップの544点となった。

充実した英語学修環境

1年次と2年次には上記の教科に加え、自由選択科目として180時間の「英語コミュニケーション」が用意されている。毎日夕刻に開講するこのコースでは、様々な話題について英語で会話をすることで、英語で自由に意見を述べるスキルを自然に習得できる。この中で「USMLE対策セミナー」も週2回開講され、通常の授業よりもさらに高度な医学的な内容を定期的に学ぶことができる。また、これらの英語関連の授業はアクティブラーニングに特化してデザインされたLanguage Roomという教室で実施されている。

本学医学部の学生は毎年学年末にTOEFL ITPを受験するが、その試験様式に慣れるために1年次にMyELTというオンライン教材を用いた自宅学修環境も準備している。3年次以降は英語圏での臨床経験が豊富な指導医の元での国内臨床実習、そして4週間以上の海外臨床実習を通して、それまでに学んだ医学英語を実際の医療現場で使う環境が用意されている。 またこうした英語学修を支援するために医学部には6名の常勤の英語教員に加え、8名の海外出身および海外経験豊富な医師が医学英語教員として揃っている。

このように国際医療福祉大学医学部では、入学時にどんな英語力であっても、全ての学生が「医学を英語で学ぶ」ことが可能となるための英語教育とその学修環境を提供している。

【Profile】
札幌開成高等学校、立命館大学国際関係学部国際関係学科、旭川医科大学医学部医学科(2001年卒)、Macquarie University 大学院通訳翻訳学科。
2017年から現職。国際医療福祉大学では医学部での医学英語教育を含む「成田キャンパス総合教育センター英語主任」、「大学院医療福祉経営専攻医療通訳・国際医療マネジメント分野責任者」を務める。