河村 和弘 教授からメッセージ

高度生殖医療リサーチセンターについて

不妊治療は体外受精の成功により大きく発展してきました。 ヒトの体外受精研究は1940年代から開始されましたが、その臨床応用が試みられたのは1971年からです。 さまざまな試行錯誤が重ねられ1978年にRobert EdwardsとPatrick Steptoeによってヒトの体外受精が成功し、 世界初の体外受精児が誕生しました。その後、欧米諸国において成功が報告され、日本でも1983年に国内初の体外受精児が誕生しました。

当時の体外受精の技術は未熟なものであり、受精卵の培養液の自作や、腹腔鏡手術下に採卵を行うなど、 この黎明期では体外受精は一部の大学病院などでのみ行われておりました。やがて、経腟超音波の開発と排卵誘発剤などの薬剤の進歩により、 現在の採卵方法が確立されました。また、企業が体外受精に必要な培養液や器具を販売するようになり、 体外受精による不妊治療は大学病院から一般のクリニックに広まりました。現在、日本で体外受精を実施している施設は約600施設となり、 年間の採卵および胚移植の合計周期数は40万件を超え、世界で1、2を争う体外受精大国となりました。 体外受精による出生児も年々増加し、今では20人に1人が体外受精児となっています。

この体外受精による不妊治療は、今大きな壁に突き当たっています。 日本が体外受精大国となった背景には、晩婚化による卵巣機能不全患者の急増があります。 卵巣機能不全とは、高齢や病的な原因により卵巣内の残りの卵子数が激減したり、卵子の質が低下する病態です。 卵巣機能不全では、体外受精を実施しても妊娠は困難であり、最も確実な不妊治療法は若い女性からの提供卵子を用いた体外受精です。 しかし、この方法は、倫理的な問題に加え妊娠中の合併症が増加するなど、最良の方法とは言えません。

私たちは、このような患者様が自らの卵子で妊娠できる方法として卵胞活性化療法を開発しました。 この方法は体内では発育しない閉経した女性の卵巣内にわずかに残存している卵胞を活性化し、卵胞の発育を再生して体外受精を行う方法です。 2013年に世界初の児の出産に成功し、米国Time誌が選ぶ2013年世界10大medical breakthroughに認定されました。 当センターでは、この卵胞活性化療法をさらに改良して臨床成績を向上し、より多くの患者様が治療に成功するよう研究を進めて行きます。 また、この方法を世界に広めていくための中核となるセンターとしても機能するよう、国内外から医学者および研究者を受け入れ、その育成に努めて参ります。

【Profile】
愛知県立瑞陵高等学校、秋田大学医学部(1996年卒)、医学博士。
秋田大学医学部講師、聖マリアンナ医科大学医学部准教授、生殖医療センター長・産科副部長、を経て、2018年4月から現職。山王病院リプロダクション・ 婦人科内視鏡治療センター、米国スタンフォード大学Visiting Professor(産婦人科学)、日本産科婦人科学会認定指導医・産婦人科専門医、日本生殖医学会認定生殖医療専門医。